困った、困った、最近忙しくて試写会に行けない。

 映画だけでメシを食ってるわけではないから、試写会ばかり優先するわけにもいかない。もっと金になるところに顔を出さねばならぬという事情もあるのだ。。
 生きるということは優先順位をつけるということでもあるんだよ(笑)。
 マスコミ向け試写会というのは、だいたい平日の13:00と15:30(たまに18:00~)に京橋や、銀座、六本木、南青山など、交通至便な都内ド真ん中で行われるね。
 ぼくは早朝から自宅で仕事をし、15:30に間に合うようにでかけるというのがパターンだ(偶然知ったのだが、作家の田中小実昌もこのパターンだったらしい。コミさんは試写が終わると新宿ゴールデン街に突入する)。最近は二時間以上の作品がけっこう多く、観終わるとだいたい17:30。素直に帰って仕事を続ければよいのだが、都心の夕方は誘惑に満ち満ちでいる。どの飲食店もその時間ならクチアケで、どこでも入れるから、つい寄ってしまう。これはまったくケッコウな組み合わせで、朝それなりにいい原稿が書け、試写の映画も期待以上で、うまいものにありつけたという三拍子そろうと、なかなか良き一日であったとベッドの中で思えてくるのである。まあ、そんな日がそうそうあるものではないが──。
 やっとのことでヤリクリがつき、北朝鮮のミサイル騒動が喧しいなか、立て続けに3本試写にいったが、これが珍しいんだ、観るもの観るもの、みなオモシロイ。行幸である。しかも......3作ともハリウッド映画で、アメリカ人が主人公で、なにかとんでもない大仕事をやらかすという物語。つまりアメリカンドリームが表に裏にテーマになっている。しかもどれも実話に基づいているというのだから、これは何かあるのである。

1本目は『ゴールド/金塊の行方』 。
http://www.gold-movie.jp/

 
 

 舞台は80年代アメリカ中西部、ネバダ州リノ(カジノがある砂漠町だ)。
 父が始めた採掘会社を受け継いだ主人公(マシュー・マコノヒー)、何ををやってもうまくいかずに酒びたり。ついには一攫千金を夢見てインドネシアで渡り、大金脈を掘り当てる。
 これ以上ないというアメリカンドリームの実現はアメリカ中を沸かせるが、金鉱からのサンプルには偽装工作がなされていたという事実が発覚する。マコノヒー絶対絶命!ということになるのだが......。 
 マコノヒーがね、まさに、アメリカ男の魂に触れるような男を見事に演じるわけだな。それはなにかというね「最後の大勝負」だ。

 
 

 これに打ってでなきゃあ、アメリカ男とはいえないのだ。あの元祖イケメンのマコノヒーがだよ、ハゲでデブで、ファッションセンスゼロのドン臭アメリカンドリーマーになりきって、インドネシアの山奥で命懸けの金採掘に賭ける。まさになりふり構わずだ。マコノヒーのね、饐えた汗のニオイが試写場にも浸みだしてくるようだったよ。

 ぼくは学生時代をアメリカで過ごしたのだけれど、アメリカ人ってのは、最終的にはこのような根性論でケリをつけたいひとたちなんじゃないかという印象を持っている。まあ、はっきり言えば特攻精神だよ。とくに、今で言えば、トランプ支持者が多いラストベルトあたりの庶民。彼らの間ではそういう根性のある男女がヒーロー、ヒロインとして喝采をあびるような気がしてならない。
 もうひとつ。ぼくはこの映画の脚本で気にいったのは、友情という伏線。正確なセリフはメモしわすれたが、「インドネシアに金を探しにいったが、みつけたのは友だった」という泣かせるバディセリフがでてくる。こいつが最後のどんでん返しにつながってくる。
 映画の味わい的には『アメリカン・ハッスル』的でもあるね。

 6月1日からだ。

ゴールド/金塊の行方 6月1日(木)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー 提供:東北新社 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント / STAR CHANNEL
ゴールド/金塊の行方 6月1日(木)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー 提供:東北新社 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント / STAR CHANNEL
この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
2017.6.21 更新
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。