『Bosch/ボッシュ』について、さあ、書くぞと意気込んでみたが、ここは「紙」のメンプレではなく、ブログである。ぼくがわざわざ物語を要約したり、キャストやスタッフの説明などしなくとも、下記ウイキィペディアをお読みいただくほうが、正鵠を射ているのですから、どうぞどうぞ。また超オモシロの原作についても詳細なので、ゼヒこちらを参照されたい。

※アマゾンのテレビドラマについて(外部サイトへ接続します)_

※マイクル・コナリーの原作について(外部サイトへ接続します)

 ともかく、幼いころ売春婦だった母が殺され、その事件は未解決のままお蔵入り。孤児院で育ったというトラウマを抱えるロサンゼルス市警の刑事、ハリー・ボッシュが、母殺しの犯人をひとり追いながら、ロスでおきる難事件を解決していく話。規則破りもいとわないその捜査法は、警察内部でも問題になっているが、ギリギリのところでハリーのブレない姿勢を信頼する上司や同僚が救いの手を伸べる......。

 ぼくがおもしろいと思ったのは、このドラマ、先達ハードボイルド/ノアール作品の顰に倣い、ロサンゼルスという街を実に巧みに道具立てとして使っているところなのである。実際、ドラマの監修もしている原作者のマイクル・コネリーもロスの住人であり、ロサンゼルスの街も主役と断言しているほどだ。ロケもハリウッドから西にはいかない、と(笑)。

 ハリーの自宅なんか、そうとうシビれます。

 ハリウッドヒルズの崖に建つこの家、LAの光の絨毯のような夜景が黙っていても目に入ってくる。豪華ではないが、テラスもあって、実によい。

 ぼくは、15年以上前だが、ビバリーヒルズの不動産屋で「一億円で買える」家ツアーをしてもらったことがある。そのときこりゃいいわいと思ったビバリーヒルズポストオフィス(郵便局ではなく、こういう地名があるのです)のマルホランドドライブ寄りの丘に建つワンベッドルームの瀟洒な家があり、そことけっこう似ていたものだから、機嫌が良くなる。ぼくに代わってハリーが住んでいると思って観てるわけです。

 ジャズ好きのハリーはここでCDを聴きながらビールを飲るのを習いとしているのですね。最高だ。ぼくも毎晩これでいい。たまに女性も招待しましょうかね(笑)。
それでも、このロケーションと刑事という組み合わせは、ちょっと現実的じゃないんじゃないかと思っていたら、いかにもLAの刑事物らしく、ハリーがあるハリウッド映画のテクニカルアドバイザーをやったギャラで買ったという設定になっている。ま、ありえないこともないでしょう。
そして、この崖っぷちの家のガラス窓から、母殺しの犯人が潜むLAの闇を睨め回しているハリーという図も、いかにもLAらしく、よろしいのです。
 そうこうしていると、おや、ここいったことあるぞ。おお、こっちも良さそうというぼく好みのロサンゼルスの店がけっこうでてくる。ドラマでは47歳ということになっているハリーのおっさん趣味とぼくの趣味はもろかぶってるんですよ。
 ウディ・アレン映画でニューヨークの"Carnegie Deli"や"Elaine's"が登場するとうれしくなるんですが、同じ伝なんでありマス。

 例えばハリウッドの老舗中の老舗、"Musso & Frank"だな。

 ここで、ハリーはドライ・マティニを飲む。ぼくだって、LAだったらここですよ。バーテンの老マニーが"Enjoy!"と言って出すカクテルはぜんぶ旨い。いまや世界一のミクソロジーは東京にあり、かもしれないけれど、マニーの顔、そして店の雰囲気には勝てない。
「また来たよ」と言って注文するあの楽しさね。ほどよく飲んだら、テーブル席でポーターハウスかリブアイにむしゃぶりつくんでさあ。
 ドラマ本体も、もちろんおもしろいが、こういう変則旅行番組的な要素もぼくがこの『Bosch/ボッシュ』をいたく気にいっている裏理由なんでありマス。
※まあ、ぼくの知る限りですが、次のようなLAレジェンド店がさらりと登場。

Musso & Frank
http://www.mussoandfrank.com/


Nickel Diner
http://www.nickeldiner.com/


The Original Pantry Café
http://www.pantrycafe.com/


Du-par's
http://www.dupars.net/Store/


Cupid's Hot Dog
http://www.cupidshotdogs.net/

この記事の執筆者
TEXT :
林 信朗 服飾評論家
2017.6.21 更新
『MEN'S CLUB』『Gentry』『DORSO』など、数々のファッション誌の編集長を歴任し、フリーの服飾評論家に。ダンディズムを地で行くセンスと、博覧強記ぶりは業界でも随一。