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ヴィットリオ矢部のイタリア悦楽三昧

2017年03月16日

名店「E.マリネッラ」の3代目に聞いた、タイ結びの技

 ファッションの仕事に携わるイタリア人は、目の前にした人のタイのノットをよく観察する。「どのようにタイを結んでいるのか」「巧みで個性的なノットなのか」......、センスのいい奴かどうか品定めするように、ジロジロと見る。イタリアでスーツを着ていて、何か落ち着かないと感じるなら、必ず彼らの視線があるときだ。

 

 タイの結び方は、悩みの多い装いの技術である。ウェブサイトや古い写真集などで、タイの結び方を調べると、往年の世界的な名作家や名俳優、国を代表する名士たちは、実に多彩で個性的なタイを楽しんでいることがわかる。オスカー・ワイルドは、随分とノットが大きいと感じるものの、デカダンスが溢れているし、フレッド・アステアは、あまりにもエレガントに襟元を飾る。ウィンザー公は、スーツとシャツに合わせて、巨大ノットも極小ノットも巧みに使い分けているし、アリストテレス・オナシスなんて、タイの大剣でノットを隠すという離れ業のスタイルだ。タイのノットを見るだけで、その人の顔が思い浮かぶほど、オリジナリティが漲っている。

 

 タイのことなら、ナポリの紳士、マウリツィオ・マリネッラ氏に聞こう、と1月のピッティ・ウォモ終了後にナポリのショップを訪れたのである。

 

 マリネッラ氏といえば、創業100年を超える、タイを専門に扱うナポリの名門店「E.マリネッラ」の3代目当主であり、世界のVIPのオーダーメイドにも立ち会う、タイを知り尽くした正真正銘のナポレターノである。

 

 マウリツィオ氏が、タイを手に持ってアクションを交えながら、熱弁をふるった。

 

「タイの結び方は、プレーンノットが一番です。上質で張りのあるシルクの表地と、しなやかな芯地を使ったタイであれば、最もシンプルなプレーンノットが、綺麗なノットを生み出します。同じタイを長年愛用すると、表地と芯地が柔らかくなるため、プレーンノットでは、ノットの形が小さくなり過ぎます。そこで、プレーンノットで結んだときと、ほぼ同じ形になるダブルノットに結び方を替えるのがいいでしょう。使い込んで柔らかくなった生地が二重巻きのダブルノットによって、ノットが小さくならずに均整のとれた形になります」

 

 ウインザーノットでもなく、セミウィンザーでもない、プレーンノットがマリネッラ氏の強い勧め。プレーンノットでタイを結べば、ノットの下にディンプルを加えたり、大剣と小剣をずらすなど、細かい技を混ぜ合わせることで、シンプルなタイ結びゆえのニュアンスを表現できる。先に挙げた、名作家や名俳優、あるいは名士といった先人たちの高度でエキセントリックな結び方も、よくよく見ると、実はプレーンノットなのである。"タイのプロフェッショナル"であるマリネッラ氏は、シンプルなタイの結びを少しアレンジすれば、紳士の洒落たスタイルになることを教えてくれる。

 

「タイのノットに、粋人の風格が滲み出る」とマリネッラ氏は言う。洒落者のイタリア人たちは、それを見逃さないのかもしれない。

 

 

<追記>

  マリネッラ氏の祖父にあたる「E.マリネッラ」の創業者、エウジェニオ・マリネッラは、タイの装いについて教訓を残している。実践的な項目を5つほど紹介しよう。

 

 ・生地は、良質なシルクを選ぶ。

 ・正しいタイの幅は、8,5~9,5㎝。それより少し幅が広くてもよい。

 ・タイの色は、日中は明るい色が好ましく、夜は深い色がよい。

 ・デザインの基本は、無地、小紋柄、ストライプ柄は3色まで。

 ・タイを選ぶときのルールは、直感にしたがう。助言を求めてはならない。

 

 

マリネッラ1.JPG

「E.マリネッラ」3代目当主のマウリツィオ・マリネッラ氏。海外への出張などがなければ、毎朝6:30の開店に合わせて店頭に立ち、顧客を迎える。ナポリ随一の名士にして、ナポリの街を代表する顔である。


 

マリネッラ2.JPG

 早朝から多くの客でごった返した店内は、今やナポリの名物となった。ヴィットリア広場に面した「E.マリネッラ」は、20㎡ほどの本当にこじんまりとした本店である。
http://www.marinellanapoli.it

 

 

profile 矢部克已

“ヴィットリオ矢部”こと本誌エグゼクティブファッションエディター矢部克已。ファション、グルメ、アートなどすべてに精通する当代きってのイタリア快楽主義者。イタリア在住の経験を生かし、現地の工房やテーラー取材をはじめ、大学でイタリアファッションの講師を勤めるなど活躍は多岐にわたる。 “ヴィスコンティ”のペンを愛用。Twitterでは毎年開催されるピッティ・ウォモのレポートを配信。合わせてチェックされたし!

@katsumiyabe (Twitterアカウント)