「特別な1台」から限定モデルまで

 
 

最良の素材と技術で我々を魅了するイギリスやイタリアのビスポーク。クルマにおいても、フェラーリは創業から10年ほどの間、顧客の希望に応じた特別な1台を作ってきた。有名なのが、映画監督のロベルト・ロッセリーニが妻のイングリッド・バーグマンのためにオーダーした「375MM」(1953年)だ。ピニンファリーナがてがけたスタイリングは、当時としては珍しい格納式のヘッドライトを備え、抑揚の効いた独創的なもの。ボディカラーは「グリージョ(グレー)・イングリッド」という薄いシャンパンゴールドとグレーをミックスしたような色味で、それはバーグマンの瞳の色を再現したものだった。その後、長らく中断していたビスポークは、2008年にさる日本人のコレクター向けに再開され、2012年には、エリック・クラプトンがオーダーしたワンオフモデルも公開された。近年はパターンオーダーともいうべきプログラム「フェラーリ・テーラーメイド」を立ち上げ、幅広い素材や色のオプションから選べるようになっている(ラポ・エルカンの主導で始まったとか)。さらに、あらかじめ顧客のオーダーを募ったうえでごく少量だけ製作される「フェラーリフォーリ・セリエ」と呼ばれるシリーズもあり、その最新版「J50」が昨年末、日本で披露された。

日本人が本社を訪ねて50年を記念した「J50」

 
 

「J50」はフェラーリの日本進出50周年を記念したモデルで、生産台数は10台。もちろん日本国内のみで販売され、すでに全台が受注済みだ。V型8気筒エンジンを搭載する「488スパイダー」をベースにしながらも、70年代の名車「308GTS」をモチーフにダイナミックで近未来的なスタイリングをまとう。フルLEDのヘッドライトを排したフロントマスクはベースモデルの雰囲気とはまったく異なり、V8エンジンをスケルトンカバーで覆ったリアセクションも美しい。価格は250万~300万ユーロ(約3億~3億6000万円)で、今からオーダーすることはおろか、実車を目にする機会も叶わないだろう。特別な1台を手に入れた顧客は、コレクションとしてガレージに収まる可能性が高いのだから...。なお、日本政府が初めてフェラーリを公道車輌として認証した1966年、最初の登録車輌は「275GTB」だった(トップ画像・向かって右側の車両)。オーナーとなった人物はフェラーリの存在を知るや、本拠地のモデナまで訪ねてきたという。それ以上詳しい情報はないが、その情熱的なカーガイのことを、もっと知りたくなった。

 
 
 
 
この記事の執筆者
TEXT :
櫻井 香 記者
2018.2.11 更新
男性情報誌の編集を経て、フリーランスに。心を揺さぶる名車の本質に迫るべく、日夜さまざまなクルマを見て、触っている。映画に登場した車種 にも詳しい。自動車文化を育てた、カーガイたちに憧れ、自らも洒脱に乗りこなせる男になりたいと願う。